「交通事故治療の中止」は、自賠責保険の慰謝料を算出するときに必要になる「治療期間」に大きな関係があります。たとえば、治療を受けている医師からの診断書に「中止」と書かれたときには、これまでに治療にかかった期間に7日を足した日数が最終的な治療期間となります。
そこで今回は、交通事故治療の中止に関連した慰謝料の計算方法や治癒と違い、慰謝料が増額されるケースについて、さらには治療中止を迫られたときの対応などについてまとめています。
交通事故治療中止と慰謝料の計算方法
「自賠責保険」は交通事故により怪我などの被害を被った被害者を最低限救済することを目的としているため、「一日一律で4,200円」の慰謝料を受けることができます。
慰謝料は、「治療期間」と「実際に通院した日数を二倍した数」を比較して、数の少ないほうに4,200円をかけて算出します。
もしも、診断書に「中止」と書かれたとしたら、7日分の日数が足されて計算されるため慰謝料の額が増える可能性があります。
尚、診断書には中止のほか、「治癒見込」や「転医」、「継続」と書かれたときにも同じく7日を加算して慰謝料を導き出すことができます。
交通事故治療中止と治癒の違い
医師の診断書に「治癒」と書かれることがあります。
治癒と書かれたときは、治療を開始したとされる起算日から最終日までの期間を治療期間と定めるため、中止のように7日を加算するといった概念はありません。
起算日や治療期間は、事故による怪我を最初に治療した日によって考え方がちがいます。
たとえば、事故後7日以内に初診したときは事故日が治療開始日になります。一方で、事故後8日以降に初診したときは治療開始日の7日前が治療開始日となります。
治療中止で慰謝料が増額されるケース
治療中止になったときに「慰謝料が増額されるケース」をみていきましょう。
ここでは、事故の治療にかかった治療期間(以下①)を60日、実際に通院した日数(以下②)を31日であったと仮定して、診断書に治癒と書かれた場合と、中止と書かれた場合について見ていきます。
◎診断書に治癒と書かれていた場合
①と、②×2=62では、①のほうが少ないため、60×4,200円=252,000円が慰謝料になります。
◎診断書に中止と書かれていた場合
①+7日=67と、②×2=62では、②のほうが少ないため、62×4,200円=260,400円が慰謝料になります。
このように、診断書に「中止」、もしくは「治癒」となっているかどうかで賠償金の額に影響してくることがあることを念のため覚えておきましょう。
保険会社から治療中止を迫られた?
加害者側の保険会社によっては交通事故治療を開始してから3カ月ほど経過すると、治療費の立替え払いを保留、または一括払いの打ち切りをしてくることがあります。
これの出来事を被害者が「保険会社に治療を中止された」と誤った認識をしてしまい、その後の治療を中断してしまったというケースがよくあります。
・治療を続けるかどうかは被害者の自由
治療中止を迫られた場合であっても、被害者とすれば加害者の過失により被った怪我(損害)ですので、治療費の請求だけでなく今後も治療を続けることは当然の権利でもあります。
保険会社側から一方的に治療中止を迫られたとしても、治療を続けるかどうかを決めるのは被害者(患者)の自由です。従って、怪我による症状が残っているときには通院を受け続けることが大切です。
・打ち切り後は健康保険に一旦切り替る
治療を続けたあとの医療費を加害者側の保険会社が負担するか否かは、被害者側と保険会社との交渉次第ともいえます。通常であれば、一括払いの打ち切り後は「被害者自身の健康保険」に一旦切り替えたうえで治療を続けることになります。
健康保険を使った治療では、医療費の一部を自己負担しなければなりませんが、症状固定と診断されるまでにかかった治療費であれば後で加害者側の保険会社に損害賠償請求することができます。
交通事故により損害を受けた被害者にとって、交通事故治療の中止や慰謝料の計算方法は考えずにはいられないことです。診断書に中止、または治癒と書かれただけで慰謝料の計算方法が違ってくることもあります。
交通事故の対応にしっかりと責任を持って誠心誠意尽くしてくれる加害者もいれば、反対に被害者側からの訴えに全く取り合わずになかなか対応を勧めてくれないような悪質な加害者もいます。このことから、被害者自身も交通事故治療に関する幅広い知識や、損害賠償請求についても色々と知っておく必要があるのです。